ある日の相談。60歳前後の夫婦が郵便物の封筒をたくさん持って来ている。どうやらクレジット会社、ローン会社などからの請求書が送られてきたものらしい。
封筒には受付表の氏と同じ氏が書かれているが、名が夫婦のものとは違う。
「実は長男の債務整理で相談に来ました。」というのだ。事情を聞くと、同居している独身の長男についての相談で、長男は、以前にも200万円くらいの消費者ローンがあり、父親が金を出して一括で整理したつもりだったのだが、全部ではなく、長男は残ったローンを支払うために更に借金をしてしまったということだった。そして、今回のローン会社の方が質が悪く、頻繁に両親にまで電話をかけてきて、脅し文句を言うというのだ。
長男は就職したものの長続きせず、現在ではアルバイトをして小遣い程度を稼いでいるということだった。年齢は30歳を迎えようとしているというのだ。
今回の債務については、長男からじっくり話を聞いたので、今回持ってきた資料のものが全てで元金だけで250万円くらいなので、前回と同じく父親がお金を出して解決してやろうと思っているということだった。
その夫婦の相談を聞いて、私は、「判りました。今は何もすることがありませんので、次回にはご長男一人で相談に来るように言ってください。それと、お父さんは債務を急いで支払うことだけは止めてください。」と言った。
夫婦は怪訝そうな顔をしている。相談になっていないと思っているのだろう。
そこで、私は夫婦にたて続けに質問を浴びせた。
「家族関係殊に子供の数は?」
「今回の債務は誰の問題ですか?」
「長男さんは家にお金を少しでも入れていますか?」
「長男さんの様子はどうですか?」
「今回の件について、お父さんお母さんに頭を下げましたか?」
その他諸々である。
夫婦の回答は推して知るべしであるが、長男は高校卒業後職を転々とし、趣味は携帯のゲームなどであるが、それらにお金を使ってしまい、家には一銭も入れていない。今回の債務についても、長男本人から打ち明けたのではなく、郵便物は本人が隠していたものをたまたま両親が見つけて騒ぎとなった。その他・・・。
であった。
私は、当日、夫婦からの事情を聞いただけで、何ら行動を起こさない理由を告げた。
長男は債務が自分のものであることを認識していない。
前回の両親の対応も長男を単に甘やかしただけで、何の役にも立っておらず、お金をいわばドブに捨てただけである。
長男は30歳であり、これまで両親に対しては大人で、両親の言うことなど「うざったい」などと言って聞く耳を貸さなかったのに、債務整理になった途端に赤ん坊のように両親にすり寄ることは許されることではない。大人だったはずなのであるから、大人の対応をさせるべきである。
長男が現在のようになってしまったのは、家で母親の作った食事をただで食べ、家にもただで住む、電気代・水道料も全く負担せず、自分の好きな車、ガソリン代、携帯電話代だけを支払っていたことを許していた両親にも責任がある。大人が独り立ちして一人前らしきものになったと評価することができるのは、衣食住の全ての面において自立するということであり、そうでないのは子供が学問を探究し続けているとか、修行中であるなど極特殊な場合に過ぎない。
云々
そして、最後に、「そんな子供は申し訳ないが、いくら投資しても、あなた方(両親)の老後の面倒をきちんと看るとは思えない。だから、息子のためにと思って準備したお金は、ご自分たちのために取っておいた方が良い。」と言う。
このような苦言を呈されても、すぐに納得する両親はほとんどいない。殊に母親は長男が可愛いのだろう。
そして、その日の相談は終わる。
次回には、問題の長男が事務所を訪れたときの様子をお話しする。