最近、テレビでコマーシャルを流している法律事務所がある。そのほとんどが債務整理のコマーシャルだ。
債務整理というのは、何かしらの原因で多額或いは複数の債務を負ってしまい、その返済に困窮している人の依頼事件だ。
以前、「・コム」とか「・富士」「・・ファイナンス」とかいう消費者金融会社があり、利息制限法を大幅に上回る利息での貸付をしていたことがある。その後、利息の取り過ぎによる過払金返還請求がなされるようになり、都市の弁護士事務所の中には、一時期それをほぼ専門に取り扱っていたものもあった。そして、その集客のため、何億円もかけてコマーシャルを流した事務所もあり、その代表弁護士が経済雑誌に掲載され、チヤホヤされたこともあった。一種の「過払バブル」であった。しかし、この世に無限ということはなく、過払金返還請求も数が減り、「過払バブル」は去り、この種の事務所は新たな事件(中国向けの会社設立業務だとも言われている。)に帆を向けたらしい。
最近テレビでコマーシャルを流し、債務整理の勧誘をしている弁護士事務所のコマーシャルの内容は次のとおりだ。
1 貸金会社から得た取引履歴(借受・返済の履歴)をお送りください。
2 そうすると、当事務所はそれが過払になっているかを無料で計算します。
そして、その後、その事務所が何をしてくれるのかについては、コマーシャルでは流していない。
多分、2の結果、過払がなく貸金会社に対して金銭の返還請求ができないような事件については、「過払はありません。」と通知して終わるのだろう。過払の計算など弁護士事務所にとっては何も難しいことではなく、集中すれば1件当たり30分もあればできてしまうことだろう。
2の結果、過払があり貸金会社に対して金銭の返還請求ができる事件については、依頼者の代理人として請求していくのであろう。そして、弁護士報酬は、一説によると回収金額の25%程度にもなるということらしい。
我が事務所のような普通の弁護士事務所においては、依頼者は「借金で困った。」という抽象的ともいえる相談で来所する。そして、債務について、事情を聞き、一般的な銀行などの借金とともに、消費者ローンからの借入があることがあり、そのような場合、弁護士事務所が貸金会社に対し、取引履歴の開示を求める。(前述のコマーシャル弁護士事務所ではこの開示をせず、これはあくまでも依頼者の事務なのである。)そして、過払がある場合には、貸金会社に請求をなしていくのであるが、それはあくまでも依頼者の全体の債務整理の中の一場面に過ぎないものであり、それで食べているのではないのである。あくまでも、依頼者の立ち直りを目指しての債務整理をするのである。
田舎の法律事務所においては、債務整理事件は、「依頼者の立ち直り」を目指し、その結果により報酬(それは借金をした人からいただく報酬であるから多額になるはずがない。)をいただくのであるが、それに対し、コマーシャル集客をしている都会等の事務所は、過払事件を拾い事務所の経済的なものを追求するというものである。
前者は事件を処理することが先行しその後に報酬となるのに対し、後者は悪い表現を使わせてもらうと「金になる事件」を追うものである。
どちらが、依頼者のためになるかは言うまでもないとは思うが、「無償」という言葉に惑わされないようにするのが賢明な依頼者であろう。「無償の法律相談」などと銘打って弁護士活動をするようでは世も末であろう。